息子だが、昨日クラスメイトとのやり取りでトラブルになり、教室で泣いていたと担任の先生から連絡があった。
「真面目に物事を遂行したい息子vs悪ふざけで楽しくワイワイやりたかったクラスメイト」の構図だったらしい。
息子は揶揄されて1人ポツンと泣いたらしく、帰宅してから話を聞いてみようと思ったのだが、息子は帰宅しても平然としており、トラブルがあったという素振りも無かった。
だが、顔を覗き込めば少しの刺激で今にも決壊しそうな瞳をしていた息子。思わず「学校で何かあった?」と聞いてしまった。
息子はすかさず「何もないよ!」と言ってはいたが、私から目を逸らし何かを堪えるような表情をしていた。
下手に突くと何も話してくれなさそうな気がしたので、私はモヤモヤしながら仕事に戻り、1時間ほど作業を続けたが、息子の事が気になって身が入らず、キリが良いタイミングで子供たちを誘ってオヤツを食べる事にした。
ブレイク
普段、遊んでいる子供たちに「オヤツ食べるよ〜!」と声を掛けると、我先にとリビングまで走り去って行くのだが、この日は息子のテンションが明らかに下がっていた。
娘が走り去って行った後、残された息子に「母ちゃんと一緒にオヤツ食べよう?」と、改めて声を掛けたのだが「うん…」と言っただけで、トボトボと私の後について来た。
皿にオヤツを盛り付ける前に必ず2種類の内どっちを選ぶかジャンケンをするのだが、息子は「どっちでも良いよ…」と、それにも乗ってこない。
違和感は確実にあるのだが、それを振り切ってなるべく普段通りに娘と話をしながらオヤツを食べている時だった。
息子がオヤツを床に落としてしまった。普段通りに「床に落ちたものは食べずにゴミ箱に捨ててね」と伝えると、息子は表情を一層曇らせながら「オヤツ、もういらない。息子君はバカなんだよね」と言った。何かが溢れ出た瞬間だった。これを逃したら、息子の気持ちはずっと分からないままだろう。
私は「どうしてバカなんだと思ったの?」と訊いた。息子は「息子君はバカだからいらないんだよ。もう死んでもいい」と言った。
言葉として出て来たものはなかなかショッキングだったが、そこに行き着くまでの息子なりの思考過程が分からなければ、こちらとしてはその言葉を言葉通りに素直に飲み込む訳にはいかない。大変な思いをして産んで育てて、こんなところで簡単に死なれては困る。
息子と向かい合って「大事な話だから、どうして息子君がバカなのか、教えてほしい」と改めて訊いた。すると、息子は表情をくしゃくしゃに崩しながら、学校で起きた友達とのトラブルについて話してくれた。
息子は一部のクラスメイト達から、揶揄われたり、嫌がらせを受けているようだった。内容はとても下らないし、担任の先生が介入して嫌がらせをする子を叱ったりする事もあったそうだが、息子は自尊心が傷付いたのだろう。
嫌がらせを行い、相手を不快な気分にさせる方がおかしいという事を伝えたが、それだけではこの話は息子の中で消化不良になると思ったので、私の弟の話をした。
非行少年の行末
低学年の頃、弟の同級生に厄介な奴がいた(以降、Aとする)。私も会えばスカートを捲られたり、突然殴られたりしたし、他にも嫌がらせを受けていた子がチラホラおり、Aの親に母から苦情を入れた事もあったが「うちの子、ちょっとヤンチャなだけで〜」とか「こしあんちゃんが可愛いから、好きな子ほどいじめちゃうって言うでしょ〜?」と全然反省する素振りもなく、「あの家は話が通じない」という噂は素早く広がり、一家ごと遠巻きにされるような始末だった。
弟とAは仲が良く、Aは弟に対して嫌がらせをすると事は無かった。母は弟に「Aとは遊ぶな」と言っていたのだが、誘われると断れない弟はズルズルとAと遊び続け、とうとうAに言われるがままに近所のスーパーで万引き未遂をしてしまったのだ。
その日弟はAから「オヤツを食べよう」と誘われた。Aが弟を連れてスーパーに入ると「商品を持って店の外に出て来い」と言って店の外に出て行ってしまった。
余計な小遣いを持たされていない弟は、店で会計が出来ず、かと言って商品を持ったまま店の外に出るのは犯罪だと分かっていたので、途方に暮れて泣き出し、店員に事情を説明して保護されたのだった。
店から電話が来た時に母は飛び上がらんばかりに驚いていたのだが、怒り心頭で弟を迎えに行った。後々母から話を聞いたが、Aの親はなかなか迎えに来ず、やっと来たと思ったら「でもお店の商品とってないですよね?」と言ったらしい。
この親にしてこの子あり、と言う言葉そのものだった。
以降、Aはその騒動で様々な家庭からガン無視されるようになり、一緒に遊ぶ友達も減った。後に弟はAに会うたびになじられたそうだ。弟はAとは関わり合いたくなかったらしく、なじられるたびに腹は立ったが、言い返さずに無視し続けていたと言う。
あれから何十年と経ったが、Aは窃盗の前科がついたと人伝に聞いた。何も驚くような事ではなく、あのまま育てばそうなるという、つまらない話だった。
息子の出した答えから見えてきたもの
この話をした後で息子は「今の話って、本当だよね?なら息子君、もう少し考えてみる。叔父さんみたいになった気持ちで」と言って、数分間押し黙って考えていた。
暫くして、息子は弟が良かった点を挙げ始めた。まず、近くにいた大人に相談出来た事、次にAになじられて嫌な気持ちになっても言い返さず無視した事だった。
息子が挙げた2点は確かにその通りではある。しかし、息子のクラスメイト達はAぐらい変な奴なのか確証が持てない。百歩譲って、ただ楽しいから息子をいじっただけの可能性もある。問題は息子を「いじっていい奴」という舐めた見方をしている事にある。
いじりは、ある程度懐が知れた仲の良い関係性の中で成り立つものであって、決してパワーバランスの高低差の中で成り立つものでは無い。
そして、子供同士のコミュニケーションの中で発生するパワーバランスを親が直接コントロールする事はできない。
息子にとって自尊心を削るようなコミュニケーションを、どのようにいなして行ったら良いのか。男児のコミュニケーションについて、私は過去の経験の中に対処方法を知らない。
忙しくて余裕のない夫だが、この話は夫にも共有して一緒に息子と話をしなければならない。同時にコミュニケーションに関する本や育児書も探してみようと思う。